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東京高等裁判所 平成4年(行コ)31号 判決

控訴人

篠田健三

四海良道

右両名訴訟代理人弁護士

佐伯剛

小野毅

根岸義道

森卓爾

被控訴人

逗子市長沢光代

右訴訟代理人弁護士

横溝徹

被控訴人

丸紅株式会社

右代表者代表取締役

小野豊

右訴訟代理人弁護士

杉浦正健

鈴木輝雄

仲居康雄

上拾石哲郎

被控訴人

奈良建設株式会社

右代表者代表取締役

奈良忠則

右訴訟代理人弁護士

石川博臣

豊岡拓也

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人逗子市長が、原判決別紙物件目録一記載の各土地につき、被控訴人丸紅株式会社に対して、原判決別紙登記目録(一)記載の登記の各抹消登記手続をしないこと及び原判決別紙物件目録二記載の各土地につき、被控訴人奈良建設株式会社に対して、原判決別紙登記目録(二)記載の登記の各抹消登記手続をしないことは、いずれも違法であることを確認する。

3  被控訴人丸紅株式会社及び同奈良建設株式会社は、逗子市に対し、原判決別紙物件目録一及び二記載の各土地を明け渡せ。

4  被控訴人丸紅株式会社は、原判決別紙物件目録一記載の各土地についてされた原判決別紙登記目録(一)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。

5  被控訴人奈良建設株式会社は、原判決別紙物件目録二記載の各土地についてされた原判決別紙登記目録(二)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。

6  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文第一項同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏六行目の「富野暉一郎」を「沢光代」に、同六、七行目の「昭和五九年」を「平成四年」に改める。

二  同四枚目裏三行目の「被告逗子市長」を「前逗子市長富野暉一郎(以下「前逗子市長」という。)」に、同七行目及び同八枚目裏末行の「被告ら」を「前逗子市長及び被控訴人会社ら」に改める。

三  同六枚目裏六行目の「前逗子市長」を「元逗子市長」に改める。

四  同一五枚目裏九行目の次に改行して次のとおり加える。

「一五号条例は、交換によって逗子市に損失が生ずることを防止するためのものであるところ、本件交換提供地の価額は本件交換取得地の価額よりも低く、本件交換契約は逗子市の利益になり、一五号条例二条一項但書は適用されず、地方自治法九六条一項六号の議会の議決を要しないから、本件交換契約を締結する際に議会の議決がされていなくとも、本件交換契約は有効である。

価額差が本件交換取得地の価額の六分の一をこえていても、被控訴人丸紅株式会社及び被控訴人奈良建設株式会社は両土地の価額差を逗子市に寄付し、逗子市はこれを寄付として受け入れたから、逗子市に対する寄付とみるべきであり、一五号条例二条一項但書は適用されない。」

五  同一九枚目裏一〇行目の次に改行して次のとおり加える。

「一五号条例は、交換によって逗子市が損失を被る場合とそうでない場合とを区別しておらず、逗子市が利益を得る場合であっても、その差額が高価なものの六分の一をこえるときは、不正な行政を排除するうえからも議会の議決を必要とするものであるところ、本件交換提供地の価額と本件交換取得地の価額との差額は本件交換取得地の価額の六分の一を明らかにこえるから、一五号条例二条一項但書が適用され、地方自治法九六条一項六号の議会の議決を要するのに、本件交換契約を締結する際に議会の議決がされていないから、本件交換契約は無効である。

不等価の交換契約は一般に行われており、一五号条例二条一項但書の範囲をこえる部分を寄付とみることは、右規定を無意味なものとするから、右両土地の価額差を逗子市に対する寄付とみることは許されない。」

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、控訴人らの請求は理由がなくこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八枚目裏七行目の「被告」の次に「(当時)」を加える。

2  同三一枚目表二行目及び裏九行目の「被告逗子市長」を「前逗子市長」に改める。

3  同三二枚目表一一行目から同裏七行目までを次のとおり改める。

「同項但書は、「価額の差額がその高価なものの価額の六分の一をこえるときは、この限りでない。」と規定している。右但書の規定が設けられた趣旨は、次のとおりであると解される。

地方自治法は原則として地方公共団体の財産の交換を禁止し、条例又は議会で議決した場合に限りこれを許すこととしている(九六条一項六号、二三七条二項)。これは、本来、地方財務制度が総計予算主義の建前をとり、財産の取得は歳出として予算に計上した購入費で買収し、財産の処分は財産売払い代として歳入に入るべきものとしているのに、実質上同じ効果をもつ交換が予算の統制を離れて自由に行えるとすることは、総計予算主義の原則からはずれることになるため、これに制限を加えようとしたものである。そして、逗子市において右地方自治法の規定に基づく条例として定められたのが前記の一五号条例である。右条例においては、「交換財産についての価額に差額があるときは金銭で補足するようにしなければならない。」ものと規定されている(二条二項)ところ、交換する財産につき金銭で補足する額が多額にのぼる場合は、交換の形式をとりながら実際は売買を行うのと同一の結果となり、総計予算主義に対して特に制限的に交換を認めた趣旨を没却することになり、場合によっては売買契約についての制限を回避する手段ともなるため、前記の但書の規定が設けられたものと解される(右の但書の規定が設けられた趣旨からすると、これに反する交換は無効と解すべきである。)。

前記のような一五号条例が定められた趣旨に鑑みると、同条例は、単に交換によって逗子市に損失が生ずることを防止するためだけのものではなく、本来総計予算主義の例外を認めるためのものなのであるから、前記但書の規定にいう「価額の差額」は交換取得財産又は交換提供財産のいずれが高額で生じたかを問わないものと解すべきであり、仮に交換財産だけを比較して、取得財産が提供財産より高額であって逗子市の利益になるとみられる場合であっても、右但書が適用されないとはいえない。

しかしながら、前記のような但書の規定が設けられた趣旨から考えると、財産の交換において「価額の差額がその高価なものの価額の六分の一をこえるとき」であっても、実質的に売買が行われるものとみることができず、総計予算主義の趣旨を没却することにならない場合であって、かつ、その他の制限を潜脱しないとき、例えば、交換により逗子市が取得する財産が相手方に提供する財産より高額で、その差額分について相手方が金銭の補足請求権を放棄し(原則として自由である。)、あるいはその差額に相当する財産を寄付(贈与)する(ただし、負担を条件とするものでないこと(地方自治法九六条一項九号参照)及び直接間接を問わず寄付金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなものでないこと(地方財政法四条の五参照))ような場合には、右但書の規定の適用はないものと解するのが相当である。

本件交換契約においては、前記認定のとおり、交換条件として評価差額については被控訴人会社から逗子市へ無償提供し、精算はしないこととされているのであるから(右差額の無償提供が逗子市の負担を条件としあるいは寄付金を割り当てて強制的に徴収するようなものであることを認めるに足りる証拠はない。)、仮に、本件交換契約において、本件交換提供地と本件交換取得地との価額の差額が本件交換取得地(弁論の全趣旨から本件交換取得地の価額のほうが高額であると認められる。)の価額の六分の一をこえるとしても、右但書の規定の適用はないというべきである。」

二よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官越山安久 裁判官大前和俊 裁判官武田正彦)

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